映画・小説パフューム:賛美両論のラスト・・感情移入が難しかった作品
香水の映画と言えば、この映画が話題になることが多いのですが、とても勉強にはなるものの、私としては何とも評価の難しい作品です。
この作品の魅力は、ひとつには香水の香りの抽出過程など、フランスのパリや香りの聖地グラースを舞台に原作では非常に事細かに、映画では香水瓶や抽出器具、豊かな花の色や美しいラベンダー畑などを直接魅せてくれること。
もうひとつは、香り、という原始的な人間の感覚が鋭すぎるため凶器に陥っていく主人公と、それを取り巻く人間たちの、欲望にまみれた愚かさを表現しているところであると思います。
この作品で賛美両論別れるのはなんといってもクライマックスの処刑台でのシーンで・・
(以下ネタバレご注意です)
処刑台に出てくる犯人である主人公の哀れな最期を見届けようと集まった群衆や娘をあやめられた父親までもが、主人公の生み出した香水の力で主人公を神と見なし、乱痴気の欲望に陥って、主人公を許し逆に崇めるところなのですが。
このシーンの原作より。
「この男がまんまとみずからを渇望の的にしたのだ。愛され、敬われ、神のごとく崇められる!プロメテウスの大業をやってのけた。そればかりではない。自分の中に、神の火を赤々と燃え立たせた。プロメテウスよりも偉大である。父にも、母にもすがらなかった。ましてや神の力によったものではない・・。唯一、自分で作り出した。自分こそが神である。教会に住みついて、乳香に庇護されている神よりもはるかに偉大な神である」
※プロメテウス・・ギリシャ神話の神。人間に火を与えた。人間は火によって繁栄したが、火を使って戦争もするようになったことの象徴。
※乳香・・フランキンセンス。アロマ精油でもある天然香料のひとつ。非常に古くからある貴重な香料で、イエスキリストが誕生の際に送られた三大宝物のひとつ。神を象徴する香りとして教会でも焚かれる。
このラストシーンが素晴らしいという意見と、しっくりこないという意見で分かれるようですが、私は後者です。
香りに異常な執着をするサイコパスの物語であれば、深い丁寧な心理描写を最後の群衆にも適用して欲しかった。神を越えた香水をパタパタさせて、皆がひれ伏してしまうのはあまりにも香水の力を買被りすぎていると思えるから。
いつもアロマの仕事をしているので、どこか香りを冷めた目で見ている自分がいるのかも知れません。
私は香りは魔法でも化学でもなく、人それぞれの体験を強化し喚起する媒体のようなものと感じています。
前回の投稿でもご紹介しましたが、プルーストの香りの記憶に関する一文
「求めている真実が、紅茶ではなく自分の中にあることは明らかだ」
香りは受け止める人の心や生い立ちで、まったく変わるものと私は考えています。
ラベンダーの香りの化学式は存在するけれど、ラベンダーの香りは受け止める人たちの心の在り方で無数に存在します。その人がラベンダーに持つ記憶でも変わります。
嬉しい香りになったり、悲しい香りであったり。
同じ人間ですら、今日がお天気なのか、曇りなのか、今日悲しいのか元気なのか、空腹なのか、満たされているのかで、同じラベンダーの香りは全く違う香りになります。
それは、ローズでもジャスミンでもフランキンセンスでも同じ。
これは私が仕事を通して感じて来たことで、香りは、そのも自身を媒体として、人の心の中に感情を変化させて全く違う形のものとなって、人を喜ばせたり、落ち着かせたりする。
その繊細さ、多様さにそれこそ神秘的な魅力を感じて、次はどのように喜んでいただこうと、ブレンドを考えたり、クライエントの気分や体調を判断する面白さ、私はそこに香りの魅力を感じます。
もちろん、私にこの主人公グルネイユ=ジャン・バティストのような才能も野心もないと言えばそこまでですが。
香水がテーマだからこそ、なぜ香りが人を狂わせるかを、あまりファンタジーに終わらせるのではなく、もっと小さく泥臭く人間的に終わらせてくれたら、より香りの魅力や恐さが伝えられたのかなと思います。
例えば・・娘をあやめられた父親が、唯一、娘の匂いを再現できる主人公を本当に息子のように愛し、一緒に暮らしていくようなエンディングだったら・・人の悲しさや狂気をより感じられたと思うのですが、皆さんはいかがでしょうか。
非常に人気の作品ではありますが、香りが好きだからこそ、敢えて辛口の評価をさせていただきました。ただ、いずれにしても、香水やフランスの香りの歴史を感じ取ることの出来る興味深い問題作では間違いなくあると思います。未見・未読の方はぜひ。
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